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続・多賀山日記「人の痛みを笑顔に変える」

by 清水哲男

はじめて彼女にあったのは、もう三十年以上前になる。

まだ少女のあどけなさが残る、可憐という言葉がよく似合う人だった。ハコバンに絵本をいっぱい積んで幼稚園や保育園、さらに「来て!」と呼ばれたらどこにでも出かけて絵本を売っていた。

しばらくして「ようやくお店が持てました」と案内がきた。出かけると、小さいけれど子どもたちの夢がいっぱいつまったような、お店だった。何よりも彼女の夢がいっぱいつまっていた。

だけど、彼女の素顔は夢いっぱいで明るいばかりではなかった。父親との葛藤に悩んだり、人間関係に悩んだり、生きて行く辛さを十分というほど抱え込んでいた。だからこそ絵本の楽しさに癒され、その癒しを多くの人にと考えたのかもしれない。痛みがわかるからこそなのだろう。

新たな困難を抱える。お店の経営というやつは、夢のようにうまくはいかない。彼女の悪戦苦闘は続いたが、それでもあきらめなかった。何度か店を移った。もうこれ以上続けられないと思ったこともあった。その度に大勢の人が手を差し伸べてくれて今がある。

小さなお地蔵さんの森の中に佇む新しい店をのぞいた。小さなお客さんとお母さんお父さんたちが楽しそうに絵本をひろげていた。子育ての悩みや、どんな絵本を選んだらいいか、彼女への相談はひっきりなしだ。

店を開けているのは日曜日だけ。普段は幼稚園や保育園、さらに「来て!」と呼ばれたらどこにでも出かけるし、大学の教壇にも立つ。可憐さが残る少女のような彼女は、いつの間にかパワフルな女性になっていた。でも、相変わらず笑顔の素敵な人だった。人の痛みを笑顔に変える、そんな素敵な人だった。

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