LOG IN

続・多賀山日記「白い影」

by 清水哲男

影に悩まされていた。ここひと月ほどのことだ。

一年前に大腸ガンの手術をして術後一年の検査を受けた。郭清したリンパ節のひとつに転移が見つかり、この一年抗がん剤を服用してきた。いろんな副作用があり、けっこう大変な思いもした。それも生きるためだと自分を納得させてだ。

だから一年後の検査でC Tの画像を見た医者が「肝臓に小さいけれど影がありますね」と言った時、自分の耳を疑ったことは言うまでもない。血液検査では腫瘍マーカーの数値は正常範囲内だ。何よりも辛い抗がん剤治療に耐えてきたんだ。いまさら転移だなんて、そりゃあないだろ。疑問と悲嘆と怒りのようなものが身体の中を堂々巡りしている。

「MRIを撮りましょう」医者は軽く言った。「それではっきりしますよ」と。

「悪いものだったら?」

「また手術ですね」言葉の隙間になんとなく楽しげな余韻があった。

それからひと月、ぼくはずっと白い影に悩まされ続けてきた。そうして二日前にMRIを撮り、今日結果を聞きに出かけたのだ。

受付をすませて診察室に呼び込まれるまでの三十分は、今までの人生の中でもいちばん長い三十分だった。極度の緊張と不安。その一方で何もかもがどうでもいいというような諦め……。

診察室で画像を見ながら医者がぶっきらぼうに言った。

「血管腫ですね。悪いもんじゃないです」

「治療の必要は?」

「ありません。何もしません」

ぼくの中の白い影は消えた。

一方で、医者の楽しみも消えたようだ。

OTHER SNAPS