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続・多賀山日記「水の底」

by 清水哲男

目が覚めると、そこは水の底だった。

岩陰から小さな虫が汗を拭きふき泳ぎ出てきた。

「うちの鬼嫁ときたら、俺の背中に卵を産みつけるんだぜ」

そう言ってひょいと背中を向けた。

なるほど背中には粟つぶのような卵がぎっしりと並んでいた。

「俺の名前を聞いたら笑うぜ。コオイムシってんだ」

そいつが卑屈な笑みを浮かべた瞬間だった、何かが延びてきてそいつを大きな口の中に引き込んだ。水が激しく動き、砂が巻き上がった。その向こうに醜い大きなカエルが、満足そうに噯の泡を吐いていた。延びてきたのはカエルの舌だった。

「げっぷっ。ああ、そろそろ夏も終わりだな」

醜いカエルは唇を捲り上げて笑った。

ぼくの身体は勝手に動いた。両腕を思い切りひろげ、針のような爪先をそいつの腹にぶち込んでやった。カエルは全身を痙攣させながら白眼をむく。

突然白い網にすくわれて水の外に放り出された。

「わあ、タガメがカエルを食ってるぞ!」人間の子どもの声が響いた。

「気持ち悪いな。殺しちゃえ!」誰かが囃し立てる。

「虫だってなんだって命は大切にしないと」父親らしき男がさもわかったような顔で言った。

その時父親の車のカーラジオが、この国に向かって大量のミサイルが発射されたことを告げたが、誰の耳にも届いていなかった。

数分後そこには何も存在しない世界がひろがっていた。

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