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続・多賀山日記「幸せな風景」

by 清水哲男

その付け揚げ屋の名前は西春屋。

鹿児島中央駅が西鹿児島駅と呼ばれていた頃、はじめて立ち寄った。取材旅行で筋向かいの旅館に泊まっていたのだ。旅館の部屋で夕方から焼酎をやり、小腹が空いたので何かつまみをと思い外に出た。コンビニなどはない時代だ。

と、通りに面してガラスケースを並べ付け揚げを売るこの店があった。

ガラスケースの向こうには居間があり、一家が夕食の食卓を囲んでいた。通りからその様子は丸見えだ。なんだか団らんの邪魔をするようで声をかけるのが憚られた。するとおじさんが気づいてくれて、奥さんだろうか、女性に目配せをしてくれた。小学生高学年くらいの男の子と妹らしき女の子が冷たい視線を投げ掛けてくる。心の中で「ごめんな」とつぶやいた。二十数年前の話だ。

久しぶりに訪ねてみると、通りに面したガラスケースはなくなっていた。

「店じまいしたんだよ。朝早くからの仕事がきつくて……」

おやじさんは照れたように笑った。それが本当の理由かどうかはわからない。しかし、おやじさんは少々老けたが孫に囲まれて楽しそうだ。あの小学生だった息子さんの子どもたちなんだろうか、それとも娘さんの……。

店はなくなったけど、家族の団らんの風景は少しも変わっていなかった。

温かい、幸せな風景だ。

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