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続・多賀山日記「遠い日々」

by 清水哲男

その朝のことはとてもよく覚えている。

正月気分も抜けなくて、布団の中でゴロゴロしていたら、突然携帯が鳴った。

京都の友人からだった。

「おい、ほんやら洞が焼けてるぞ!」

彼は電話口で叫んだ。彼が何を言っているのか、とっさにはわからずに沈黙を続けた。

「燃えてるんだよ!ほんやら洞が!」

若い頃から足繁く通っていた喫茶店ほんやら洞が、火事で焼け落ちたというのだ。

それはぼくの青春の喪失と言っても過言ではなかった。その事実をどうしても自分の目で確かめたくて京都に飛んだのだが、それはまぎれもない事実だった。

昨夜十五年ほど前に出されたムック本を書架からひっぱり出し、ぺらぺらめくっていた。

「京都音楽空間 音楽に出会える店案内」

あの店はまだあるのだろうか、この店はどうなっただろうか。

そんなどうでもいいようなことを思いながら時間をつぶしていた。

三〇ページで手が止った。

「関西フォークのメッカ」の時代から

変わらずに残る、自由な空気感

ほんやら洞

懐かしい窓際の席が写っていた。

焼け落ちて五年がたった。

四十年、五十年前の、あの日あそこにあったものはもちろん、あの日あそこにいたぼくの姿が、おもむろに浮かび上がった。

懐かしくて仕方ないけど、二度と戻れない遠い日々だ。

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