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続・多賀山日記「伸びた影」

by 清水哲男

朝、サッシュを開けて外に出た。

雨が降っていた。何気なく足元に視線を落とした。一羽のメジロが眠るように死んでいた。

建屋の前には小さな森のような庭があり、水場と餌場をつくり、そこは鳥たちのささやかなサンクチュアリィになっていた。塒にするものはいないが、朝になるとどこからともなく多くの鳥たちが集まり、チッチチッチと賑やかな社交をくりひろげるのだ。鳥たちは楽しんでいるのだろうが、人間にとっても心和む風景であり喧騒なのだ。

このメジロは、猫にでも襲われたのか? が、傷を負った形跡はないな。老衰か、それとも何か病の果てか。原因不明の死、だな。そう思いながらイワツツジの根元に埋めた。鳥たちの世界ではどうなのかはわからない。そこいらに投げ捨てて、自然に返すのがいいのかもしれない。だが、人間の世界では、そうやって死んだ命への慰めをするのだ。昨日まで自由に空を飛んでいたのに・・・、安らかに、と。

この空を飛べたら・・・。この数カ月ずっとそう思っていた。歩いて数分の飲み屋に行けない。車で二十分の母親も訪えない。親しい人々と顔を合わせることもできない。ましてや京都に戻ることもできない。ずっと閉じこもることしかできないのだ。癌患者の僕はそうやって死の影と向き合ってきた。

周囲はそろそろ動きはじめている。夜の街にも灯が戻りはじめている。少なからず浮かれはじめている。

だが僕は未だに死の影と向き合っている。

日没直前のように、長い影がいつ果てるともなく伸びているのだ。

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